かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません

時刻は十九時。

日中は、若い家族連れのお客さんが多かった。この時間になると年輩客やオフィス棟で働く会社員の姿が目に付く。

ルシェルスに入ると、そこはまるで高級ホテルのラウンジのような内装で、お客さんの年齢層も少し高めだ。天井にはシーリングファンが音もなく三つ回っている。所々に南国を思わせる観賞植物が置かれ、バーカウンター越しに銀座のパノラマ夜景が広がっていた。

すごい、こんな素敵なお店があったなんて……。

お酒を飲むときは静かに飲みたい私にとって、この店は都合がよさそうに思えた。
早速、カウンターのスツールに座る。帰国してから初めて注文するお酒はやっぱりパナシェだった。

「お待たせしました」

縦長のフルートグラスに注がれたパナシェは、照明に照らされて薄い黄金色に輝いていた。バーテンダーから受け取ってひと口飲む。

んー！　美味しい！

ビールのほろ苦さとレモネードの甘さがはじける泡に混ざって、爽やかな風味が口に広がる。

今日、加賀美さんからここの施設のパンフレットをもらった。実際来て見ると半日でも全部の店を回りきれるかわからないほど店が多く、毎日数千から一万以上の人が来ると聞いている。

ふぅ、とひと息ついて窓の外を見ると、遠くの夜空にチカチカと小さな光が点滅しているのが見えた。

飛行機かな……？

飛行機を見ると、どこの国に行くのかな、といつも思う。もしかしたらフランスかもしれない。

そういえば……パリのバーで会ったあの人、今頃なにしてるかな？