かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
彼に会ったのは約一週間前、もう二度と会うこともない人だけれど、なぜか顔だけは鮮明に脳裏に焼き付いていた。帰国してからまず最初に買ったスマホをバッグから取り出し、スクロールしてとある番号を映し出す。それは、かけることもないだろうと思いつつも登録しておいた彼の電話番号だった。そして、私は何を考えていたのか、無意識にその番号に電話をかけていた。

っ!? わ、私なにして――。

数回呼び出し音が鳴ってからハッと我に返る。慌てて電話を切ろうとしたけれど……。

『もしもし?』

もう遅かったようだ。

まさか本当に繋がると思っていなかった。電話口から聞き覚えのある低い声が聞こえて焦る。

ど、どうしよう! えっと……。

とにかく落ち着こう。

「あ、あの、私……芽衣です」

大きく息を吸い込んで、ドキドキする胸を押さえながら私はたどたどしく口を開いた。

『まさか、君から電話がかかって来るとは思わなかったな』

落ち着いた口調。衝動的に電話をかけてしまったけれど、なにを喋っていいのかわからない。

「久しぶり……ですね」

『そうか? 一週間前に会ったばかりだろ?』

それはそうなんだけど……。

会話の糸口が見つからない。沈黙するのが嫌で私はあの夜、彼に嘘をついたことを話すことにした。

「あの、私……実は今、日本にいるんです」

『へぇ』
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