かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
あぁ、環境の変化が目まぐるしくてついに幻聴まで聞こえるようになっちゃったのかな……?

まだ若いと思っていたけれど、ついに耳がおかしくなってしまったのかもしれない。

長嶺さんが言ったことは理解できる。けど、その意味は理解できなかった。まるで人ごとのように、彼の言葉は私の耳を通過していった。

「もう一度言うか? 俺と結婚して欲しい」

長嶺さんは何食わぬ顔でにこりとする。

「あはは……」

乾いた笑いしか出てこない。

け、結婚!? って、はぁぁ!?

ちょっと! 長嶺さん自分がなにを言ってるかわかってるの?

結婚は恋愛の先にあるものだと思っていた。ろくにその恋愛経験さえないのに、それをすっ飛ばしていきなり結婚だなんて……。

「冗談、ですよね? 結婚って、私とってことですか?」

「嘘でも冗談でもない。本気さ。君以外のほかに誰がいるんだ?」

頬杖をつきながら長嶺さんの真摯な目はずっと私を見ている。まるで“逃がさない”と言われているようでじりじりと居心地の悪さがこみ上げてきた。彼は真顔だった。どうやら本気で言っているらしい。

「賭けに負けたからって! そんな……」

「賭けに負けたら俺の願いを叶えるって、あのとき君は了承したよな? あれは嘘だったのか?」

眉尻をさげて“傷ついた”とわざとらしい表情をする長嶺さんに私はすかさず声を大にする。

「だからさっき電話で約束守れなかったって――」

「それは君が俺と再会できないと思っていたからだろ? でも、こうして会えた」

うぐ……。

そう突っ込まれるとぐうの音も出ない。
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