かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
「あー! どうしよ」

帽子を被ったままの頭をガシガシしながら恭子さんが唸っている。店頭にいる売り子さんは今ふたり。いつピークの波が来るかわからない微妙な時間帯ではある。ひとりでここを裁くのは無理だ。

「あの、部長って、長嶺部長のところですよね? ちょうど挨拶に行こうと思っていたので私が持っていきましょうか?」

すでに長嶺さんとはすでに面識もあるし“挨拶”というのは口実だ。

「えっ?」

私の申し出に恭子さんが驚いて目をぱちくりしている。

出しゃばったマネしたかな……。

私は店のスタッフじゃないけれど仕事仲間だ。店が困っているときはなにか力になりたい。それがコンサルタントとしての仕事じゃなくても。

「でも、芽衣さん悪いわ、部長に電話して悪いけど取りに来てもらうように電話する」

「いいんですよ。私もそんなに急いでる仕事があるわけじゃないし、今日は少し視察というか……あ、オフィス棟にも行ってみたいし」

すると恭子さんがホッと笑顔になった。本当にこの人は美人でモデルさんみたいだ。

「ありがとう。今日ね、外部からも人が来るような大事な会議なんですって、それで終わったらみんなにおやつとして食べてもらうって言ってたから……どうしても遅れるわけにはいかなかったのよ、そう言ってくれて助かる。ありがとう、ふふ、芽衣さんには助けられてばかりね」

持ちつ持たれつ。こうやって少しずつクライアントと信頼関係を築き上げることは、私にとっても仕事を円滑に運ぶため、いいことだと思う。
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