かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
まだ結婚を夢みていたとき、そんな仲睦まじい夫婦に憧れを抱いていた。けれど、今は仕事が一番だし長嶺さんと結婚する気なんてない。

「お待たせしました。味噌ラーメンです」

目の前に熱々の湯気を立たせた味噌ラーメンが置かれると、じわっと唾液が口内に溢れ出る。半熟卵に濃厚そうなスープ、太麺でシャキシャキのもやしに厚切りのチャーシューが載っている。

「いただきます」

まずはスープから。レンゲで掬ったスープに口をつけると声も出ないくらいのうまみが広がった。それから手を止めることなく麺をすする。

「うまいだろ?」

「パリでどうしても日本食が恋しくなって現地のラーメンを食べたことがあるんですけど、やっぱり違いますね、すごく美味しいです」

はふはふしながらチャーシューを頬張ると、そんな私を笑顔で見つめる長嶺さんと目が合う。

「君って、本当にうまそうに食べるな。見ていてこっちも気分がいい。てっきりホテルのレストランにでも行きたいって言うかと思ってたが、ラーメンとはね……意外だったな」

うぅ、それってもしかして色気がないってことですかね? なんか恥ずかしいな……。

長嶺さんはスープや麺を啜る仕草ひとつひとつが優雅で品が良くて、育ちのよさが窺えた。

金持ちの御曹司って、みんなこんな感じなのかな? 私とはやっぱり住む世界が違うよ……。

長嶺さんもお腹が空いていたのか、ふたりしてあっという間にラーメンを食べ終わった。

「ごちそうさまでした。すごく美味しかったです」

「ああ、それはよかった」

店を出て、私たちはアリーチェ銀座の方向へ歩き出す。
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