かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
それにしても少し食べ過ぎた。さっきまで「なにか食べさせろー!」と催促していた胃袋が今度は「おいおい、いきなりこんなに食べ物突っ込むな」と文句を言っている。気まぐれなお腹をさすっていると、横を歩く長嶺さんの足がピタリと止まった。

「腹ごなしにちょっと歩かないか?」

「どこに行くんですか?」

「ついて来ればわかる」

行き先もわからずアリーチェ銀座への道から少し外れてしばらく歩くと、着いたのは小さな公園だった。二十二時を回っていることもあり、人気がない。

「こんな街中に公園があるなんて……」

「意外だろ? 俺の秘密の場所」

公園といっても遊具はブランコと砂場があるだけ。

長嶺さんに手を引かれ、街灯に照らされたベンチへ座った。

秘密の場所って、こんな公園に長嶺さんはよく来るのかな?

「寒いか?」

「いえ、大丈夫です」

十月も終わりに差し掛かり、夜になるとコートがないと少し寒い。さきほどのラーメンで身体が温まったからかもしれないけれど、この日の夜はそこまで冷え込んではいなかった。

長嶺さんは長い足を組んで左腕を私の後ろへ回した。軽く引き寄せられると「もっとこっちへ寄れ」と言われているみたいで、ドキドキしながらほんの少し身体を寄せた。
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