かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
「君も知ってると思うが、人が多く集まる商業施設への出店は銀行の融資が通りやすいというメリットがある。人通りの少ない商店街や駐車場の小さな路面店とか、融資する側だったら君はどっちに金を貸す？」

それは考えるまでもなく商業施設だ。とにかく集客してお金に利子をつけて回収できなければ銀行としてもビジネスにならない。

「君の父上がうちの商業施設に出店したのはいい判断だと思う。だから、俺としても店を守りたいんだ」

長嶺さんの優しい声音にすがりつきたくなってしまう。

「……私、どうすれば」

そう言ってハッとする。長嶺さんがせっかくそう言ってくれているというのに、心の迷いがつい声に出てしまい、気まずくて俯く。

「そんなに下ばかり見るなって、ほら」

私とは違い、温かな長嶺さんの手によって私の両頬が包み込まれる。そしてゆっくりと上を向かされた。

やだ、こんな情けない顔見られたくない。それに薄化粧にほぼスッピンのような顔はあまりにも無防備すぎる。

顔を背けたくても意外にがっちりホールドされて、視線を逸らすことくらいしかできない。

「こっち見ろ」

私は観念してゆっくりと長嶺さんへ視線を戻す。すると彼の真摯な眼差しとぶつかりドキリとした。

「そういえば今日、注文のケーキを君が会社に届けてくれたんだな。そのとき……こんなふうに目が合った」

あのときは一瞬だった。今の状況とは全然違う。「放してください」と引き離そうとしたけれど、長嶺さんのこの温もりはあまりにも魅力的すぎた。
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