かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
銀座の一等地にある商業施設で父、花澤翔一はオーナーパティシエとして店を構えていた。私が中学のときにパリにも店を出していたみたいだけど、今は本店のみになっている。

父はパティシエ界の巨匠なんて言われていたけれど、先日、心筋梗塞で急逝した。そのことを父の兄である叔父から深夜の国際電話で連絡を受け、頭の中が真っ白になった。

母は私が幼少の頃に他界し、男手ひとつで一人娘である私を育ててくれた。けれど、仕事柄多忙の毎日でいつも私はひとりだった。将来の夢もなくなんの刺激もないつまらない日々、引きこもりがちだった私に、父がかつてパティシエ見習いとして修業していた第二の故郷であるパリへ留学することを勧めてくれた。こんな平凡な毎日が変わるなら……と私は異国の地へ期待を膨らませ、高校卒業と共に単身パリへ渡った。

初めての海外は想像以上に毎日が充実して、各国から集まった留学生と切磋琢磨しながらそれなりに楽しい生活を送っていた。そして、なにか父のために力になれないかと考えるようになって、パリで経営学を学び卒業した後、私は一旦日本へ帰国してから“K.Aコンサルティングファーム”という会社に就職した。

父の背中を追いかけてパティシエになろうかと一瞬思ったこともあったけど、どうやら私にはその才能はなく、どちらかというと店の宣伝力の強化や集客改善するためにはどうしたらいいか、というプロセスを黙々と考えるほうが性に合っているということに気づいた。そして適材適所と言わんばかりに私はコンサルタントとしてメキメキ頭角を現し、半年後にパリ支店への赴任希望を出すとすぐに現地での勤務が決まった。
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