涙 のち 溺愛



「青山」

不思議な声だった。
自分でも、そう思った。

本当の、『無』が、そこにあった。

激情に駈られた青山が、スッと冷えるほどの、『虚無』

「──あんたの、拳が穢れる」


一言だけ、呟いた。

貴史の胸ぐらを掴んだ手から、徐々に力が抜けていく。

私は、それを確認して肩から手を離した。

ゆっくりと、泣きそうな表情で私を見る青山に、しっかり視線を合わせて。

私は、言った。


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