涙 のち 溺愛
そして、あの夏の日から約2年後。
二人飲みを止めてから、1年経たないくらい。
あんなことがあっても、負けずに仕事を辞めなかった『強い』私に、影で『鉄の女』とあだ名がつく頃に、青山に彼女ができたと噂で聞いた。
年下の、とても可愛い子だと。
私は、一歩を踏み出した青山の幸せを、心から喜んだ。
そして、その勇気を、心の底から称賛した。
──私には、できないことだから。
そして、なんのご縁か。
噂を聞いたのと同時期に、私は総務部から、青山と同じ営業部に異動になった。
営業事務として、青山と同じ課で働くのだ。
恋愛感情はなかったが、1年程を二人で飲み歩いていたような関係。
周りには、付き合っていると誤解されたこともあった。
勿論、即否定したけど。
『あんなことがあったから、二人で色々話してる』と言えば、それ以上の追及はなかった。
でも、同僚・同期としての枠を、彼女さんのためにも越えることなく過ごすと決め、それを守ってきた。
更に半年後、有能な営業マンである青山に、課長は専属として私を補佐につけた。
「江藤が仕事ができる奴だってのは大前提だけどな。
あいつモテるから、他の子だと色々問題が出るんだよ。
お局様に歯向かう馬鹿は、さすがにいないだろ?」
個人の専属補佐などあまりいない状況で、私が指名されたときに、課長が言った言葉だ。
『お局様』発言には、ちょっと引っかかるけど!
なるほど、私は仕事の邪魔をさせないよう虫除けになればいいのね。
青山と彼女さんの幸せに、協力できるかもしれない。
私は、喜んで引き受けた。
──そして、今に至る──はずだ。