涙 のち 溺愛
抱き締められていることも、耳元でささやく声も、体温も。
何もかもが、私を誘惑する。
『ここに居れば、安心』だと。
これは、私を傷つけるものではないと。
本能が、叫ぶ。
誰にも、頼りたくない。
独りで生きていくんだ。
───そう、固く決めていたのに。
「大体、何考えてるか分かるけどな。
断る言い訳、頭の中で並べてるだろ?
──断ってもいいぞ。
俺は絶対に諦めないから。
俺の仕事知ってるお前なら、逃げても無駄だってわかるだろ?」
え?───うわ、まさか!
あれを、私にやる気?!
青山は、ここと決めたところに対する営業は、本当に諦めない。
ていうか、しつこい!!
引くほどしつこい!!
もう勘弁してくれと、取引してくれたところを何件も知っている。
私は、顔を上げて青山を見た。
そして、うんざりしながら言った。
「──本気?」
青山は、ニヤリと悪人っぽく笑った。
「お前を、どのくらい愛してるか、証明してやる」
───────無理だ。
逃げられない。
私は、海より深い溜め息をついた。