涙 のち 溺愛
黙ってしまった私に、青山──いや、亮太は、心配そうに聞いてきた。
「和奈、何かあった?体調悪い?」
「ううん、何かあっという間に結婚しちゃうなって思って」
絶対に、もう、恋なんてしないと思ってたのに。
そんな私に、亮太は、ふわりと笑ってみせた。
「まだまだ、こんなもんじゃないぞ」
「─え?」
「全然、俺は満足してない。
俺が結婚を急いだのは、このままじゃ間に合わないと思ったからだ。
お前をどれだけ必要として、愛しているか、全然伝えきれてない。
圧倒的に時間が足りないから、一緒にいられる時間を増やしたんだ。
覚悟して。
本番は、これからだから」
───そうか。
今の私が、敵うはずなかったね。
でも、見ていて。
今、決めた。腹を括った。
負けっぱなしなのは、負けず嫌いの私には許せない。
これから先、必ず。いつか。
私の気持ちが、あなたの気持ちを上回るから。
全てを諦めていたこの私が、あなたの愛に『応える』のではなく、あなたを『愛していく』と、決めたのだから。
「───亮太こそ、覚悟していて」
「え…?」
「いつか私の愛の方が、大きくなるんだから!
亮太が『もう嫌だ』って言うくらい、亮太を愛するんだから!!」
ビシッと亮太の眉間を指差して、宣言する。
私は真面目に言っているのに、亮太は蕩けるような笑みを浮かべて、私を抱き寄せた。
そして、耳元で囁いた。
「勝負だな、『嫁』」
「望むところよ、『旦那』」
少し体を離して、二人で見つめあって。
私たちは、幸せな笑みを浮かべた。
悲しいことの後に、こんな幸せがあるなら。
いや、涙の後だからこそ、こんな溺愛をもらえたのか。
そして、それを乗り越えたからこそ、よりたくさんの『想い』で、愛したいと思える。
それならば。
今まであったことの。
────全てが、いとおしい─────
~ fin ~