思いを乗せたカクテルをあなたに
「そうだよ。母さん、俺ね……大学院に行くことになったんだ!」

カミラ(司)が嬉しそうに言うと、宏美は「頑張ったね」と微笑んだ。

「それでね――」

カミラ(司)は、次々と大学であった事を話す。講義に遅れた友達に、先生を含めた皆でドッキリを仕掛けたこと、休みの日に友達とスノーボードをしに行ったことなど。

それを宏美は、嬉しそうに聞く。急に話を止めたカミラ(司)は、悲しそうに微笑んだ。

「母さん。俺、母さんには、笑って欲しいんだ……俺が事故にあった日、本当は悲しませるつもりじゃなくって、喜ばせるために帰って来たんだ……だけど、だけど……」

「……もう良いの。私は、最後に司と話せて嬉しい……これが、最後の会話になるって分かってる。だから、これだけは言わせて?……生まれてきてくれてありがとう」

宏美は、満面の笑みをカミラ(司)に向けた。

「……俺を生んでくれてありがとう。母さん、これ、あげる……洋子さんと霊能力者のカミラさんに、協力してもらったんだ。俺の姿が見えてたみたいだから……」

洋子がカミラの前に置いた紫色のカクテルを、カミラ(司)は宏美に渡す。

「そのカクテルの名前は、バイオレット・フィズと言います。カクテル言葉は『私を覚えていて』。司さんの、自分を忘れないでほしい、という思いが詰まったカクテルですよ」

洋子は、微笑みながら宏美に向かって言う。宏美の目から、大粒の涙が零れ落ちた。

そっと司は、カミラの中から出る。そして、「ありがとう。大好きだよ」と呟いて消えていった。

「司……私もあなたが大好きだよ」

カミラと洋子は、司の言葉が聞こえていたことに驚く。

「あなたって不思議な子ね……ありがと」

涙をハンカチで拭い、宏美はカミラを見つめた。

カミラは、元気一杯に笑って見せた。
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