愛は、つらぬく主義につき。 ~2
1-1
「ユキちゃ~んっ、ただいまぁ~」

「あら。おかえりなさーい、チヨちゃん」

自分ん()に帰ってきたわけじゃないけど。『こんばんは』もなんか他人行儀だし、最近はもう『ただいま』が馴染みの挨拶。見た目は男、頭脳は女、その名はBAR『亞莉栖(アリス)』のママ!・・・のユキちゃんがニッコリ笑って迎えてくれる。

いつものカウンター席。黒いビジネスバッグと脱いだ薄手のコート、リクルートスーツの上着を空いている隣のスツールに置かせてもらい腰かけた。一応それらしく、ブラウスにチャコールグレーのジャケットとタイト目なスカートって恰好はン年かぶりだから、やっぱりまだ窮屈なカンジだ。

今日は仕事先から亞莉栖まで仁兄(じんにぃ)の車で。回り道にもかかわらずこれから本家で会合があるから、そのついでに落っことしてもらった。あとで(さかき)が迎えに来てくれる段取り。

もちろん普段は自分の車で通勤してるんだけど、なにかと妹をかまいたがる仁兄から『朝、迎えに行く』ってラインが昨日の晩に。・・・どこの世界に社長と一緒に重役出勤する社員がいるんだか。

溜息を逃して何も言わずに目の前に出されたカシスオレンジで喉を潤す。

「どぉ? ジン君の会社もう慣れた?」

カウンターの向こう側から白いシャツ姿のユキちゃんが悪戯っぽく。見た目はホント、清涼系のおにーさん。

「そーだねー。社長秘書って名前の愛人て思われてるのもいいかげん慣れた-」

開き直った笑いで、あはは~と返す。
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