愛は、つらぬく主義につき。 ~2
真が、履いてきたシューズからスリッパに履き替えやすいように、イスを用意しておいてくれたり、玄関に置いていこうとした松葉杖も遠慮なく使わせてくれたり、気遣いに感謝しながらリビングに通される。

「渉さん。宮子さんと遊佐さんがいらっしゃいました」

織江さんが晴れやかに透った声で、ソファの方へと声をかける。

どことなく心臓が軽く音を立てた。気もした。
黒い影がゆっくり立ち上がっておもむろに振り返り。吊ってない腕をピタリと脇につけ、相澤さんは静かに頭を下げた。そして。

「・・・このたびは宮子お嬢さんをはじめ、本家にもご面倒をおかけして申し訳ありませんでした」

織江さんの脚が止まり、息を呑んだ気配。・・・夫のそんな姿を、目にしたことはなかったのかもしれない。

胸の奥がねじり上げられたように、あたしはたまらなくなって「顔を上げてください・・・!」と声を詰まらせた。

「相澤さんは悪くないじゃないですかっ。謝る必要なんかありません・・・っ」

あたしはただ。
相澤さんの無事な姿を見たくて来たんです・・・!
織江さんの笑顔が見たくて来たんですっっ。

「自分を責めないでっ。責任取って命捨てるなんてこと、絶対に赦しませんから・・・!!」

もしかしたら中には、口さがないコトを言った人もいるかもしれない。でも生きてるのを詫びさせるなんて、そんなの違うでしょ・・・っっ。

せり上がってきたものを振り絞るように吐き出し、堪えきれずに涙がこぼれ落ちる。
横から真の腕が伸びてきて、胸元に頭を抱き寄せられた。

「よしよし。泣かないの」

小さい子をあやすみたいに髪を撫でられ、相澤さんが生きてて安心したのと、謝られて悲しかったのと口惜しかったのとで、なんだかもっと込み上げた。
ずっと押し込めてフタをしてた感情が一気に溢れだしたみたいに、止まらなくなった。

「困ったお嬢だねぇ・・・」

笑った気配がして。真はあたしをぎゅっと腕の中に閉じ込めた・・・・・・。
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