愛は、つらぬく主義につき。 ~2
我に返って、ここがどこだったかを思い出した瞬間は。本気でそのまま回れ右して帰りたかった。極道の何たるかも分かってないよーな小娘が分かったよーなコト言って挙句、勝手に泣くとか。

もう一生、顔向けできないって脳内で悶絶しながら、真の胸で漬けもの石みたいに動けなくなったあたしの耳に届いた深い声。

「・・・ありがとうございます。宮子お嬢さん」

・・・そうだった。相澤さんは跡目も継がない一ツ橋の臼井宮子を、いつだって尊重してくれる。決して上辺だけであしらったりしない人。

鼻も赤くてみっともなくなってるだろう顔を上げ、おずおず振り向けると。織江さんを寄り添わせ口許を和らげた彼がいた。

「お嬢さんに命を惜しんでもらえただけで本望です」





大人4人がゆったり座れるコーナーソファに落ち着き、リビングテーブルには珈琲と、お見舞いのぼた餅が人数分、見栄えよく和皿に取り分けられてる。

相澤さんはいつもの三つ揃い姿と違い、黒いシャツにスラックスで。纏う空気も普段の彼より柔らかく感じた。時折り織江さんを見つめる顔付きはもっと優しくなるのを、何だかあたしまではにかみたくなる。

刺された左腕は黒いアームホルダーで吊られ、脇腹あたりにも切られた傷があるって聞いた。まだ痛みも取れてないはずなのに、そんな素振りはおくびにも出さない。

真も。弱ってる姿は絶対に見せようとしなかったね。苦くて切ない記憶が蘇る。
そっと隣りを窺って目が合う。『なに?』ってカオ。『なんでもない』の代わりに小さく(かぶり)を振れば頭の上に掌が乗せられた。分かってるんだか・・・ないんだか。
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