愛は、つらぬく主義につき。 ~2
時間を置かずに、スキレットで煮込まれたデミグラスシチューのハンバーグもやってきて。高津さんはクレソンを脇に避けながら不意に話し出す。

「このカフェのオーナーシェフとはちょっとした縁があって、君も贔屓にしてくれると嬉しいな。身ひとつでフランスの有名店に乗り込んでいって、叩き潰されて帰ってきたらしいんだけどね。それでも、みっともなく料理人の誇りにしがみついてるところが気に入ったんだ」

ナイフで肉厚なハンバーグをひと口大に切り分け、シチューをからめて口の中に放り込むと満足そうな表情で「来た甲斐はあったかな」と独りごちた彼。

あたしも同じようにひと口。きめの細かい舌触りで、お肉のはずなのにふわふわで。口の中でコクと複雑な味わいのデミグラスに熔けてく感じ。

「美味しいです、・・・すごく」

正直に感想をつぶやけば、淡い笑みが返る。弧を描いた眸がなんとなく和らいで見えた。その時だけは作り物じゃなかった気がした。もしも相澤さんへの歪んだ執着がなかったら、ほんとは。千也さんみたいに優しく笑える人だったのかもしれない。

見捨てないって決めてる由里子さんの気持ちが少し分かったような。気付かずにいた方がよかった。・・・ような。


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