愛は、つらぬく主義につき。 ~2
行儀が悪いかなって思いつつ、締めの水菓子を待つあいだにお手洗いに立つ。
懐石って一皿の量は少ないけど種類が多いから、けっこうお腹がきつくなる。リクルートスーツのスカートはコース料理にはかなり不向きだわぁ。

仲居さんに教えてもらった方向に絨毯敷きの廊下を進み、奥まったところに小料理屋の玄関みたいな婦人用の入り口を見つけると、ちょっとゆっくり用を済ませた。

洗面台続きのドレッサーの鏡で身だしなみを整えながら。心の中で哲っちゃんにあらためて感謝する。もしあのまま亞莉栖から家に帰っても、お互いに不安定な感情を持て余して消化しきれなかったかもしれないから。

ぱん、と両手で頬を軽く叩いて気持ちを入れ直す。大一番はまだこれからだ。




戻ろうと化粧室を出てすぐを左に折れた途端、壁に寄りかかってた黒い物体におののいて変な声を上げそうになった。

「・・・ッ、ビックリしたぁっ。いるならいるって言ってよ!」

鬱陶しそうに一瞥をくれた榊は、心臓を落ち着かせようと胸の辺りをさすって歩くあたしの後を黙ってついてくる。

こんな場所でなにがあるワケでもないんだし、ほんと律儀っていうか。だから労いのつもりで。

「てゆーか心配しすぎ。ずっとあたしのお守りしてないで、息抜きしていーんだからね?」

「・・・・・・お前が要らねぇって言うなら俺に価値なんかねぇだろうが」

背中からいつもと違う低さで聞こえたとき。足が止まって振り返ってた。
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