愛は、つらぬく主義につき。 ~2
7-5
連翹(レンギョウ)の間に戻り、入り口の格子戸を横に滑らせたと同時。ここにいるハズのない人の姿が突然あたしの視界に飛び込んだ。

「エッ・・・?!」

驚きすぎて二の句が継げない。茫然と立ち尽くして。・・・固まる。

「・・・お疲れっス」

斜めにこっちを見上げた彼が冷静に。3帖ほどの小上がりで端に正座する黒のスーツ姿は紛れもなく藤さん。

うそ・・・でしょ。

もうそれだけで説明もいらない、一気に顔が強張った。

「・・・なんで」

無意識に零れたのを藤さんは黙ってなにも言わなかった。『分かってンだろ』って細めた眸が答えてる。高津さんが絡んでる以上、曖昧にはできないだろうとは思ってた。でも今日の今日でなんて・・・!

襖を隔てた向こうにいるだろう相澤さんが瞼の裏に浮かび、きゅっと目を瞑り引き手に指をかけた。

「戻りましたか、宮子お嬢」

上座から哲っちゃんの声がやんわり聞こえた。でもあたしの視線は。下座よりも手前で膝の上に両手を置き、背筋を張って畳の上に正座した相澤さんに釘付けになってた。

黒の三つ揃いに髪もいつもより後ろに撫でつけ、変わらない風格を纏う。端正な顔立ちにはいつもの淡い笑みの代わりに厳しさが滲んで、ここにいる理由なんて訊くまでもなかった。

「ご無沙汰しています、宮子お嬢さん」

何もかも覚悟をつけたように静かに頭を下げた相澤さんと顔を合わせるのは、お見舞い以来。けっきょく相澤さんの危惧を現実にしちゃったのはあたしだ。誰が悪いなんてない。

「・・・もしかして哲っちゃんが呼んだんですか」

真にここまでのお膳立ては立場上、まだ無理。なら哲っちゃんしか。

「逆だよ宮子。オレ達が相澤代理に呼ばれたの」

返事は真から返った。
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