愛は、つらぬく主義につき。 ~2
「お嬢が婿を取るのはまあ当然だが、木崎が“遊佐の若”になるたぁな!」

少し離れた人だかりから遠慮のない豪快な声が響く。見れば囲まれてるのは仁さんだ。今のところ表立った派閥抗争になってなくとも、一ツ橋も一枚板じゃない。探りを入れながらの機嫌取りといったところか。

「じゃあ真は“臼井の若”って呼ばれるね。てゆーか、あたしはやっぱり“お嬢”のままだねぇ」

聞いていたあいつは真と顔を見合せ、可笑しそうに笑った。

そう言えば俺がどう呼ぶかなんて気になったのか。・・・今さらだろうが。胸の内でぼやく。

俺は最初は真を補佐するただの兵隊にすぎなかった。同級生とは言っても本家のお嬢だ、それまでみたいに名字を呼び捨てにするのは(はばか)られる。うやむやにしてる間にあの事故が起きた。

二人の護衛役を命じられ、それからは若頭“直属”の肩書でいつも三人でいられた。結局、お嬢とも臼井とも呼べずに、『お前』『あんた』で通用するだけの月日を重ねた。それはそれで俺は満足だった。

横目であいつを盗み見る。

真を見つめる眼差しは昔から変わっちゃいない。最初からそれしか要らないように、それが当たり前のように、たった一人だけを捉えて離さない一途な女。

分かっていて惚れた。俺を戦友のように慕い、絶対的な信頼を寄せられるだけで本望だった。今も欠片も疑ってないこいつに死ぬまで隠しとおす為、もともと感情が表に出ない自分が、さらに仏頂面でぶっきらぼうになっていった。

何ひとつ変わらない自分を装って、俺はこいつの傍にい続けた。
こいつも。何ひとつ変わらねぇ笑顔で俺の傍にいた。
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