愛は、つらぬく主義につき。 ~2
早いところ、こいつも見世物から解放してやりてぇな。臼井を見やった。声をかけられれば愛想よく振る舞ってるが、もし本当に腹の中にいるとしたらしんどいだけだろう。

真に言えばこいつが気にするから大姐さんか。前に目線を戻してふと、こっちに近付いてくる男を凝視した。連れを探してたらしい、さっきの男だ。こういう機会に自分の顔と名前を本家に売り込もうとする強かなヤツも少なくない。そういう輩とも思えた。

本能的な違和感だった。狙いを定めて真っ直ぐ臼井を捉えてるように見えた。3メートルを切った距離で躊躇いなくそいつが右手を背中に回した瞬間。俺は叫んで臼井を抱き込みながら横に飛んだ。イスをなぎ倒し、床に叩きつけられた衝撃。かまわず上から覆い被さる。

耳の奥にか細い悲鳴と呻きが残る。他の音はいっさい入ってこなかった。声も何もかも。無我夢中で力いっぱい俺の下に臼井を閉じ込めた。


ただ。


守ることしか頭になかった。


傷付けさせねぇ。


奪わせねぇ。


自分がどうなるなんて頭になかった。


体が勝手に動いた。
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