愛は、つらぬく主義につき。 ~2
「・・・悪い、遅くなった」

カラスみたいに真っ黒なスーツにネクタイ締めたガタイのいい男は、姿を見せるなり相変わらずのぶっきらぼう。

「トシヤ君お疲れさま~」

榊はユキちゃんに会釈だけするとスツールからあたしの荷物を取り上げ、無言で『行くぞ』と促す。

「ごちそうさまユキちゃん! また来るね~、オヤスミなさーいっ」

「気を付けて帰るのよー? マコトちゃんにも宜しくねぇ」 

涼やかな笑顔に送られてバーを出た。


目の前の路上にセレナが停まってて、あたしがいつもの2列めシートに躰を沈めたと同時に車が滑り出す。ここから哲っちゃんちまでだいたい10分くらい。気の抜けた欠伸を漏らし、ぼーっとウィンドゥの外を眺めながら榊に話しかける。

「遊佐は? もう帰ってる?」

「・・・潰れて寝た」

「はぁっ?!」

勢いよく首をぐりんと回し、見えてないけど後ろから思い切り睨めつけた。

「なんでそんなに飲ませたの?!」

「俺じゃねぇよ」

「もうっ! 哲っちゃんみたいに底なしのザルじゃないんだから、自分の限度ってモン考えて飲んでよ~っ」

「しょうがねぇだろ。・・・それも仕事だアイツの」

淡淡と返って、口を尖らせながらもあたしは黙った。
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