溺愛なんてされるものじゃありません
次の日出社すると、私と裕香は庶務課課長に呼び出されて、課長の机の前に立つ。

「実は営業事務の女子達が体調不良で殆ど休んでいるそうで、少し人手を貸して欲しいと要請がきた。君達2人には今日は営業の方に回ってもらいたい。」

「…課長、営業はどこの課ですか?」

「営業企画課だよ。あそこには男前の平国主任もいるし嬉しいだろう。」

まさかの営業企画課…。課長は良かれと思って言ってるのだろうけど、昨日の今日で主任と顔を合わせる事になるとは思わなかった。かなり気まずい。

「はい、分かりました。」

仕事だから断る事も出来ず、渋々引き受けた。そして早速裕香と一緒に営業企画課へ向かう。

「美織良かったね。高成さんと一緒に仕事出来るし。」

裕香はニヤっとして私を見る。

「…高成さんとは何にもないよ。付き合ってる訳じゃないし。」

「そうなの?てっきり付き合ってるかと思ってた。この前飲みに行って何もなかったの?」

「…告白はされたけど、返事してない。」

「何で?高成さんいい人そうじゃない。」

「そうだけど…。」

「もしかして美織、好きな人いるの?」

好きな人?裕香に言われて何故か主任の顔が頭に浮かんだ。

違う違う。

私は首を大きく横に振り、頭に浮かんだ主任の顔を消そうとする。

でも…

「気になっている人が…いるかもしれない。」

私は小さな声でボソッと呟く。そして営業企画課に着いてしまったので裕香との話はここでお終いだ。このドアの向こうに主任がいるんだ。

なんか緊張するな…。私はポケットからミント味の飴を取り出し口に入れた。このミント味の飴は私にとって安定剤みたいなもので、大事な仕事案件の前や緊張が治らない時にこの飴を舐めると不思議と緊張も和らぎ落ち着くのだ。なのでいつもミント味の飴を持ち歩いている。

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