溺愛なんてされるものじゃありません
それから休みの日まで、私と主任はゆっくりと会う事はなかった。私は庶務課勤務に戻り、溜まっていた仕事を片付けるために残業し、主任も帰りが遅い日が続いたみたいだった。

「明日は主任とデートかぁ。」

明日の事を想像していると、突然携帯が鳴り出した。

主任からだ。

「はい、もしもし。」

「こんな時間に連絡して悪い。明日の事だけど、時間どうする?」

「そうですねぇ。水族館まで遠いですし、早めに電車乗りますか?」

水族館に行くまでに電車とバスに乗って移動しなくてはいけない。

「その事なんだが…遠いしドライブも兼ねて車で行かないか?」

「車?いいですけどレンタカー借りるんですか?」

「いや、車持ってるんだ。」

何だろう、このバツの悪そうな空気は。運転が苦手とか?深くは追求せず、取り敢えず明日の時間を決めて電話を切った。

そして次の日ーー

私は珍しく早起きした。遠足前の小学生がそわそわして早起きするみたいな感じと同じだ。まだまだ約束の時間まで時間はあるけど、デートの準備を始めた。

少しでも主任に釣り合うように、ファッション誌に載っていた冬のデートコーデを参考にして服を着替える。髪もコテでしっかり巻いてゆるふわに、化粧もいつもより念入りにした。

これで大丈夫かな。何度も鏡で確認する。なんだかソワソワして落ち着かず、窓を開けてベランダに出て、少し外の空気を吸う。

「赤崎、随分早いな。もう準備したのか?」

窓を開ける音が聞こえたのか、隣から主任がベランダに出てきた。私は張り切ってデートの準備をしているのがバレて顔を赤くする。

「いえ…あの珍しく早起きしちゃって暇だったので。」

「朝は食べたのか?」

「いえ、食べてないです。」

「外は寒いし、取り敢えずこっちに来い。」

そう言って主任は手招きする。私は分かりましたと言って主任の部屋に向かった。

朝食(これ)食べて待っててくれ。俺も急いで準備するから。」

テーブルには生野菜のサラダとコーンスープが置いてある。ドレッシングは和風、シーザー、胡麻の三種類が置いてあり、私は大好きな胡麻だれドレッシングをかけて美味しく頂いた。

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