溺愛なんてされるものじゃありません
「待たせたな。」

髪をセットし着替えてきた主任がテーブルを挟んで私の前に座る。あぁやっぱり格好いい。私なんかが隣を歩いて大丈夫かな。

「朝食ありがとうございました。」

「いや、まだ早いけどもう出発するか?」

主任は腕時計を見ながら話す。

「ごめんなさい。何か急がせてしまったみたいで。」

「何で?嬉しいよ。」

主任は微笑んで頭をポンっとする。そして立ち上がった。

「行くか。」

「はい。」

私達は外に出てマンションの駐車場へ行く。今日は寒いけどいい天気だな。そう思いながらゆっくりと青空を見上げる。駐車場には色んな車が並ぶ中、主任は黒の軽自動車の前で止まった。

「…この車なんだけど。」

「ん?じゃあ行きましょうか。」

車に乗ってシートベルトを締める。

「…俺が軽自動車を運転しても変じゃないか?」

「いえ別に。でも主任背が高いから車が小さく見えますね。あっ私も主任合わせて座席後ろにずらそうかな。」

私は座席を後ろに動かすレバーを探す。

「これだよ。」

主任は助手席の座席を後ろに下げる。突然座席が動いたので私はビックリして思わず声をあげてしまった。

「えへへ、ビックリしちゃった。ありがとうございます。」

「ったく、赤崎はいちいち可愛いな。」

「何か言いました?」

主任は小さな声で何か言ったみたいだけど、私は聞き取れずもう一度聞き直した。

「何でもない。じゃあ出発するぞ。」

主任は車を走らせた。

「主任、さっきの話なんですけど軽自動車がどうかしたんですか?」

「あー…日曜日とかよく食料の買い出しに車で行くんだけど、結構な確率で俺と車を見比べてあの人軽自動車に乗ってる、みたいな事をヒソヒソ言われるんだ。だから俺が軽自動車運転するのが変なのかと思って。」

それで私に軽自動車を見せるのを躊躇(ちゅうちょ)したんだ。確かに主任なら高級車乗り回してそうなイメージかも。

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