溺愛なんてされるものじゃありません

「どうしたの？美織。」

裕香が話しかけてきたので、私は周りに聞こえないように小声で話す。

「アイツがいた。」

「アイツ？」

「経理課の杉村さん。向こうもここで忘年会中なんだって。」

「久しぶりに再会したんだ。どうだった？」

「別にどうもこうもないし。」

私は不機嫌そうに答えると、目の前の唐揚げとサラダをガツガツ食べた。あーもう、杉村さんに会ったせいで嫌な事思い出しちゃったな。彼との付き合いは私にとって黒歴史になっていた。

その後忘年会は終わり、みんなで店の外に出てそこで解散した。

「二次会する？」

庶務課女子メンバーでこの後二次会しようかと店の外で話をしていると、また杉村さんが現れた。

「ちょっと美織借りるよ。」

「はぁ？」

突然何を言い出したかと思えば、彼は強引に私の手を引っ張り、その場から連れ出されてしまった。他の子達も何が起きたのか分からないまま呆然と連れ去られる私を見ている。

「ちょっと離してよ。」

私が何を言っても杉村さんは黙々と私の手を引いて歩く。一体どういうつもりなんだろう。

しばらく歩き、気づけば駅の近くの公園らしきところへ来ていた。周りには誰もいない。そこで杉村さんは立ち止まって私の手をパッと離す。

「こんなところに連れてきてどういうつもりよ。」

「そんなに怒るなよ。久しぶりなんだからゆっくり話をしようぜ。」

「話す事なんて何もないから。」

それだけ言って私はその場から立ち去ろうとした。本当に話す事なんてないし。

「待てよ美織。もしかしてまだ怒ってんのか？」

怒っている…という言葉に反応して、私は立ち去ろうとする足を止め、杉村さんの方を見る。

「私にとって杉村さんとの事はもう全て過去の事…今更何の感情もないわ。」

「はは、美織良い女になったな。また付き合うか？」

「ふざけないで。付き合うわけな…。」

付き合うわけないでしょ、とはっきり言おうとした瞬間…杉村さんの唇が私の唇を塞いできた。