溺愛なんてされるものじゃありません
美織達はしばらく歩き、小洒落たカフェに入った。窓際の一番奥に座り、店員を呼んで何かを注文している。

幸いにもこのカフェには席ごとに仕切りがあり、俺と高成は見つからないよう二人の手前の席に座ってホットコーヒーを注文した。

「何の話をしてるんですかね?」

俺と高成は二人の会話に耳を澄ます。

「やっぱりここのカプチーノは美味いな。それで話って何?俺と復縁する気になった?」

「違うけど…謝っておこうと思って。あの時、話を聞かずに杉村さんの前から逃げてしまったから。ごめんなさい。」

姿は見れないけど、美織は杉村に謝っているようだ。

「それは俺が悪かった訳だしいいんだけどさ、取り敢えずその杉村さんっていうの辞めろよ。前みたいに名前でいいじゃん。」

「いや、もう名前で呼ぶような関係じゃないし。」

「寂しい事言うなよ。俺さ…美織と付き合ってる時、ちゃんと美織の事好きだったよ。それで今も美織と復縁したいって思ってる。」

「復縁したいって本気で言ってるの?」

「あぁ、本気だよ。俺は美織が好きだ。何ならここで婚姻届を書いてもいいぜ?」

高成が居る手前、俺は冷静を装っているが今すぐにでも美織をここから連れ出したいと思っている自分がいる。コーヒーを飲んで少し気持ちを落ち着けた。

「婚姻届って…。」

「言い訳にしか聞こえないかもしれないけどちゃんと俺の話を聞いて欲しい。確かに美織に声をかけたのは清水ちゃん目当てだった。そこは認める。でも美織と話をするうちに、俺の中にはもう美織しかいなかった。だから美織と付き合ったんだ。でも同僚には必ず清水ちゃんを口説き落とすって宣言しちゃっててさ。美織に本気になってしまったことが言えなかったんだ。」

杉村は美織に本気というわけか。美織は今どんな表情で話を聞いているのだろう。
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