ボクソラ☆クロニクル
「ところでニーナちゃん。お洋服が濡れちゃってるわね」
「あ、これ……さっき酒場でお酒引っ掛けられて」
「あら大変。空の上は冷えるわ。風邪引いちゃうといけないからシャワー浴びてきちゃいなさい」
「ありがとうございます。えっと……」
「自己紹介がまだだったわね。ワタシはサミュエル。この船の船医よ。具合が悪くなったらすぐにサミュエルおネエさんのところにいらっしゃい」
バチンとキメッキメのウインクをしてみせるサミュエルさん。男性だと分かっていても柔らかな物腰になんだか安心してしまう。
「気をつけろよニーナ。そいつ、両刀だから。節操ねぇことこの上ねぇから」
「失礼ね。節操なくないわよ、ストレートゾーンが広いだけよ。それに、ワタシはおブスは対象外よ」
レオンさんから飛んできた野次に、プンプンと怒るサミュエルさん。
……そういうことなのかな?
その後、私はサミュエルさんの計らいで新しい服を用意してもらい、シャワーを使わせてもらえることになった。基本は大風呂らしいんだけど一応個別のシャワーも用意されているらしい。
暖かいお湯を浴びていると体がほっとする。
隣の州までだけれど一緒に旅をしてくれる人たちが見つかって良かった。歓迎はされていなさそうだけど、レオンさんも皆もいい人そうで本当に良かった。
湯気の中で心が和らいでいた、その時のこと。
「ニーナ。タオル渡し忘れたっサミュエル、が……」
背後から聞こえてきたその声に思考が停止する。
振り返ったその先にいたのは扉に手をかけたまま固まったレオンさんの姿。そしてその前にはシャワー中の、つまり全裸の私。
「お前、それ……おん……」
「い、やぁぁぁぁぁッ!」
思わず足元にあった桶を振りかざしてレオンさん目掛けて投げつける。と直線を描い飛んだ桶はスコーンと子気味いい音を立ててレオンさんの顎にクリティカルヒットしたのだった。