ボクソラ☆クロニクル
幹部会議
ニーナを乗せて出航したその日の晩、ホワイト・アリス号の船長室には船の幹部たちが集まっていた。
ジャバウォックは30名ほどの構成員により結成された空賊組織であるが、船長であるレオン含めた6名が幹部として名を連ねている。
「全くあの野郎……」
ぶつくさと文句を垂れているのはジャバウォックの船長、レオンだ。赤くなった顎の痣は先程、この船に乗ったばかりの雑用係の『少女』によって付けられたものである。
「今から地上に降ろしてやろうか」
「何を言ってるんですか。この船は先程アグロト州の空域を出て、今は風壁上空を進んでいるんですよ。あの子を暴風域の中に置き去りにしていくつもりですか?」
「言葉のアヤだよ。本気でヤるわけねーじゃん」
イリスの肩をポンとサミュエルが叩いた。
「やめてあげましょうよ、イリスさん。女の子が投げた桶が顎にクリーンヒットして……ほら、真っ赤になってるんだから、ふふっ」
「ぷぷぷ、レオンだっさぁー」
「サミュエル、ピノ! 笑ってんじゃねぇよ!」
レオンの言葉を右から左に受け流し、サミュエルとピノはえらく上機嫌そうに肩を震わせた。
「しかし、まさかニーナくんが女性とは……てっきりピノくんくらいの男の子かと思っていましたよ」
そう言って航空士のイリスは、おもむろにメガネのブリッジを持ち上げる。
「ピノ、あんなにチビじゃない」
そう言って頬を膨らませたのは小柄な少年。ジャバウォックの戦闘員であるピノだ。
「女の一人旅は危険だ。男装をするのも当然だろう。この船においておくならアイツが女だってことは幹部だけの間で秘密にして、アイツは男としておくべきだ」
と、副船長であるカルロスも口を挟む。
「当人にその気はなくとも、ここは男所帯。何があるかは分かりませんからね」
「あら、やだ。もしかしてみーんな、本当に気が付いてなかった訳?」
そう言って船医であるサミュエルが唇を尖らせた。