ボクソラ☆クロニクル

「……もーらい」
「あっ」

 隣から伸びてきたフォークが、私のプチトマトをさらっていく。

「レオンさん! それ私の!」
「はっはー! 弱肉強食だって言ってんだろ!」

 不意に伸びた彼の手がむにっと私の頬をつまみ上げた。ムニムニと頬をつまむ指先はなかなか離れようとしない。

「な、なんですか……」

 じっとこちらを見つめてくる双眸に、思わず心臓が跳ねた。頬を掴まれたままのせいで顔を背けることも出来ず、次第に頬が紅潮していってしまう。
 するとフッとレオンが鼻を鳴らした。

「……トマト」

 そう言うと彼はイタズラを成功させた子どものように笑って、私の口に先程さらっていったプチトマトを詰め込んだ。

「ボサッとしてねぇで食っちゃえよ。サミュエルのやつに全部取られちまうぞ」

 ポンポンと軽く後頭部を叩かれる。

「ひっでぇ寝癖」
「直んなかったんです!」

 そう言うと彼は面白がってまたケラケラ声を上げて笑った。
 もぐもぐと口に突っ込まれたプチトマトを咀嚼しながら、ルドルフさんのお皿に手をつけるレオンさんを横目に眺める。
 よそのお皿から盗み食いはするけど、レオンさんてすごく綺麗にフォークを使うんだな……なんかちょっと意外。


「……」

 初めて会った時に思った通りだ。
 やっぱりレオンさんは、空賊団の船長なのに全然空賊らしくない。

 粗暴なイメージとは離れたところにいて。
 眩くて明るくて、とても綺麗な手つきでご飯を食べる。

 ……不思議な人。

 そう思いながら、自分の分を取られてしまわないように慌ててベーコンを口に運んだ。

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