ボクソラ☆クロニクル
「これがアリスの心臓」
目の前にあるのは蒸気を吹かした巨大なボイラー。この中で魔風石を燃やしているんだそうだ。
「取り出されたエネルギーがそこのパイプを通ってタービンを回す。それがこの船を飛ばしてるんだけど、まあ細かいところは話してもどうせ分かんないでしょ?」
「はい、正直サッパリです」
「だろうね。ここの連中も、ほとんどのやつが船の構造なんて理解しちゃいない。イリスとかサミュエル辺りなら多少は分かるみたいだけど」
イリスさんは風を読んで航路を決定する航空士。サミュエルさんは船医。
この2人は分野を問わず知識に関して旺盛だから、3人で良く異分野知識交換会をしてるんだそうだ。難しすぎて巻き込まれた船員は3分で眠りにつくんだとか。
その2人ならまだしも、船の構造については船長であるレオンさんも、余りよく分かっていないらしい。
船長は総合的な判断を求められる立場だから、ざっくりと最低限必要な知識は頭に入っているらしいけど、細かいところに関しては覚える気もないらしい。
レオンさん曰く『ルドルフが分かってんなら別に俺が詳細を理解してる必要はねぇだろ』とのこと。
それは別に投げやりなんじゃなくて、それがレオンさんからルドルフさんへの信用なんだろう。
「タービンのメンテナンスをする。お前はそこで僕に言われた工具を滞りなく渡せばそれで良いから」
「はい、分かりました」
細かく入り組んだパイプの隙間に体を押し込んでルドルフさんが作業を始める。パイプの隙間からこちらに差し出しながら右手に工具を渡し、不要な工具を受け取って。
私は本当にただの工具手渡し係としてそこに立っているだけだった。