ボクソラ☆クロニクル
その刹那、酒場を突風が吹き荒れた。
局地的な強い風はそのままナサエルを遥か後方まで弾き飛ばす。
「な……ッ!?」
突風に吹き飛ばされながらも、ナサエルは危なげなくその場に着地をした。だが自分の攻撃を体ごと弾き飛ばした正体不明の風を前に混乱しているようだった。
よし……突然の事で私のせいだとはバレてないみたいだ。
「今、何が起きた……? 風……?」
レオンさんも、突然の事で何が起きたのか理解出来ていないようだった。
「レオン!」
そこへ、カルロスさんが走り寄ってくる。
「船の用意をさせてある! とっととずらかるぞ!」
「お、おう!」
「あの! レオンさん!」
立ち去ろうとする彼らを呼び止める。
「助けてくれてありがとうございました!」
「……」
黙りこくったレオンさんにカルロさんが「レオン、早く!」と声をかける。
するとレオンさんはつかつかとこちらに歩み寄ってきて。
「ひぎゃぁ!?」
小脇に私を抱え込んでそのまま走り出した。
「ちょ、レオンさん!?」
「黙って抱えられてろよ。お前みてぇなチビ助があんなところに残っても斬り殺されのがオチだろう? 分かってて残していくと俺も夢見が悪いんだよ」
「じゃあせめて自分で走りますから!」
「急いでるから却下。ほら、見えてきたぜ」
「え……」
レオンさんに言われて顔を上げると視界に飛び込んできたのは、1隻の飛行船。
「紹介しようチビ助、彼女が我らがジャバウォックの母船【ホワイト・アリス号】だ!」
宵闇の中でその名の通り真白く輝く飛行船、その姿を前に息を飲んだ。
「あ、来た! レオンたち戻ってきたよ!」
船の甲板から人の声がする。
「すぐに出航します! 急いでください!」
次々聞こえてくる声にレオンさんは私を抱えたまま船から垂れ下がるロープに飛びついた。そしてそのまま私を抱えて、甲板まで上がってしまう。
「ジャバウォックこれより出航する! 野郎ども、自由は我らの風と共に!」
「自由は我らの風と共に!」
こうして、あれよあれよという間に私は空賊『ジャバウォック』の『ホワイト・アリス号』に乗り込んでしまったのでした。
この出会いが私にとっても、そしてジャバウォックーーレオンにとっても大きな一歩になることを、わこの時の私たちはまだ知らずにいたのでした。