【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
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三日後の午前、エルシーは王宮を出発し、実家に向かっていた。今日明日は休暇なので、実家に帰るのだ。他に行く場所もないのだが、母や弟と少しでも長く過ごしたいし、今や使用人はふたりのみなので、家でもエルシーのなすべきことは多い。
王都の貴族街にある我が家の門は錆びていて開きにくく、ギギギ、と嫌な音を立てた。以前に帰った時よりも、音が大きくなっている。あとで油を差しておこう。
手入れが行き届いているとは言いがたい敷地内に足を踏み入れ、玄関までたどり着くと、内側からドアが開いた。
「エルシーお嬢様、お帰りなさいませ」
そこには白髪交じりで五十代くらいの、痩せた女性が立っていた。エルシーの顔を見た途端、優しい微笑みが顔に広がる。
「ただいま、マティルダ」
エルシーも満面の笑みで答える。マティルダはエルシーが生まれる前からこのウェントワース侯爵家に仕えている使用人だ。給金も充分に払えていないのに、エルシーたち家族を置いては行けない、とここに留まってくれている。あとひとり、ジャレッドという中年の男性使用人がいて、雑用や庭の手入れなどの体力仕事をこなしている。
「門の外までお迎えに上がらず、申し訳ありません」
「そんなこと、もうしてもらわなくてもいい、って前にも言ったわ。だから気にしないで。あ、ここに来る前に街で買ってきたのよ」
エルシーは鞄から、紙の包みを取り出し、マティルダに手渡した。
「まあ、焼菓子のなんていい匂いでしょう。今日はこれをお茶のお時間にお出ししますね。奥様も喜ばれますよ」
お母様は、とエルシーが問おうとした時、階段を駆け降りてくる音が耳に届いた。
三日後の午前、エルシーは王宮を出発し、実家に向かっていた。今日明日は休暇なので、実家に帰るのだ。他に行く場所もないのだが、母や弟と少しでも長く過ごしたいし、今や使用人はふたりのみなので、家でもエルシーのなすべきことは多い。
王都の貴族街にある我が家の門は錆びていて開きにくく、ギギギ、と嫌な音を立てた。以前に帰った時よりも、音が大きくなっている。あとで油を差しておこう。
手入れが行き届いているとは言いがたい敷地内に足を踏み入れ、玄関までたどり着くと、内側からドアが開いた。
「エルシーお嬢様、お帰りなさいませ」
そこには白髪交じりで五十代くらいの、痩せた女性が立っていた。エルシーの顔を見た途端、優しい微笑みが顔に広がる。
「ただいま、マティルダ」
エルシーも満面の笑みで答える。マティルダはエルシーが生まれる前からこのウェントワース侯爵家に仕えている使用人だ。給金も充分に払えていないのに、エルシーたち家族を置いては行けない、とここに留まってくれている。あとひとり、ジャレッドという中年の男性使用人がいて、雑用や庭の手入れなどの体力仕事をこなしている。
「門の外までお迎えに上がらず、申し訳ありません」
「そんなこと、もうしてもらわなくてもいい、って前にも言ったわ。だから気にしないで。あ、ここに来る前に街で買ってきたのよ」
エルシーは鞄から、紙の包みを取り出し、マティルダに手渡した。
「まあ、焼菓子のなんていい匂いでしょう。今日はこれをお茶のお時間にお出ししますね。奥様も喜ばれますよ」
お母様は、とエルシーが問おうとした時、階段を駆け降りてくる音が耳に届いた。