【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
仕方ないので、その旨を国王と第一騎士団に書簡で伝えた。

それでも自分の不甲斐なさに精神が押し潰されそうで、少しでも身体を動かそうとアーネストが剣術の稽古を始めようとしていたところで、運悪く、彼を探していたエルシーに見つかってしまった。

「もう、アーネスト様、じっとしていてください!」

こうしてエルシーに部屋へ送還され、ソファに座らされている。




「三人の子供の引き取り先にケレット夫妻が再び名乗り出ているそうですね。……あ、そういえば、ひとつ気になっていたんですけど」

午後のお茶の用意をしながら、エルシーは尋ねた。

「オーモンド邸の昼食で、とてもゆっくり食事なさっていましたよね?あれは何か意味があったのですか?」

「ああ、それは……」

アーネストはおもむろに口を開いた。

「毒味だ」

「ど、どくっ……?」

エルシーは驚きのあまり、持っていたティーポットを落としそうになる。

「ロブをそそのかした男の正体は、もしかしたらヴィンスかもしれないと思った」

「どうしてですか……?」

「最初昼食に誘われた時点では俺たち三人だった。だが、突然のケレット夫妻とアンナの訪問で急きょ六人で食事することになった。その割にはすぐに食事が運ばれてきたから、最初からヴィンスはそのつもりだったんだろうな」

「そんなことで……?」

「おそらく、俺たちがオーモンド邸を訪問した際、使用人をケレット家に向かわせ、俺たちの来訪を知らせた。そこへ偶然を装って彼らは登場したんだ。訝しがられず、ごく自然に君と繋がりを持つために。彼らが欲しかったのは君だ。だから、いざとなった時、邪魔なのは俺だと踏んだんだ」

「用心が徹底してらっしゃるんですね……。とにかく、アーネスト様の害になるものが混入してなくてよかったです」

ティーカップをテーブルに置きながら、職業柄それぐらい用心して当然なのかもしれない、とエルシーは思った。
< 104 / 169 >

この作品をシェア

pagetop