騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「だが、思わぬとことで不意打ちを喰らうこともある」

「そうなんですか、意外ですね……あっ!」

 アーネストのとなりに座ろうとしたエルシーは、急に腕を掴まれ引っ張られた。そのまま彼の膝上に乗せられる。

 いきなり視線が近くなったこの状況に驚いて離れようとするが、自分を捕らえた腕はしっかりと身体に巻きついて、びくともしない。

「あ、あのっ……」

「そんなに恥ずかしがることもないだろう。この前は君の方からキスをしてきて、俺の頭を胸に抱いたくせに」

 熱い視線に見つめられ、エルシーの心臓が一気に高鳴る。

「あ、あれは咄嗟の衝動だったというか……思い返すと恥ずかしいです」

 あんなに大胆な自分がいたなんて、今でも信じられない。

 屋敷に戻ってからアーネストはそのことには触れなかったので、エルシーもそのまま平静を装い、やり過ごそうとしていたが……見逃してはくれなかったようだ。

「いつもの君からは想像もつかないからか……ますます君を知りたくなった」

「は、恥ずかしいので、も、もうおっしゃらないで……!」

 エルシーは真っ赤になった顔を両手で覆う。普段楚々としてしっかりしている分、そういう風に初心な反応を見せるのは、ますます男を煽情するだけだ、とアーネストは教えてやりたくなった。しかし、あまり意地悪をして、本気で拗ねられては困る。

 アーネストは渋々といった風にエルシーを解放すると、彼女を横に座らせた。
< 105 / 169 >

この作品をシェア

pagetop