騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「もう……お戯れがすぎますと、いつまでも回復しませんよ」

 エルシーは咎めるように眉を寄せてアーネストを見たが、その頬はまだ赤みが抜けていない。無性にそれが可愛くて、アーネストは彼女を抱きしめたい衝動をぐっと抑え込んだ。

「あ、お花が……」

 ふと、エルシーの視界に、窓際に飾られている花瓶が映る。大輪の色とりどりの花が挿してあるが、そのうちの花びらが何枚も窓際に落ち、小さな絨毯を作っていた。

「私、片づけてきますね」

 そう言って窓辺に近づく。

 本来なら使用人の役目だが、侍女精神が骨の髄にまで染みわたっているエルシーである。誰かに頼むより自然と身体が動き、花びらを拾い上げようとかがんだ、その時。

 風もないのに、突然、落ちている花びらが全部、ゆっくりと浮き上がった。そのまま一本の細い帯状となり、開け放たれたバルコニーへと抜けていく。

「あ……」

 エルシーは慌てて後を追った。花びらはそのままくるくると風に乗って、遠く青い空へと消えていく。

 その不思議な光景に、幼い頃の記憶が重なる。自分専用の花壇の花びらが、遠く昇っていったのと、全く同じ――。


『昔、君の家を訪問した際、庭でひとりで誰かと話している幼い君を見た』

 同時に、以前のアーネストの言葉も思い出した。

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