騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍

 一週間後。

 ローランザム王国の王女ティアナを乗せた馬車一行が王宮の入り口に到着した。無事に王女を守り帰還した師団を労ったあと、アーネストは整列している騎士団の面々とともに、王女が馬車から降りてくるのを待った。

 やがて、侍従が踏み台を置いた。馬車の扉がゆっくりと開く。

 異国からやって来た花嫁とは一体どんな人物なのか。一同は緊張と好奇心の中、王女が姿を見せるのを見守っている。アーネストも王女の絵姿を見たことはなく、これが初対面だが、他の騎士たちと違って好奇心は全くない。アーネストの関心は、あの国王と手を取り合って国の安泰と発展のために一緒に歩んで行ける人物たるかどうか。その一点だった。

 まずローランザムのお仕着せを身につけた二十代前半らしき侍女が降りた。整った顔立ちだがやや吊目のその侍女は、険しい眼差しで周囲を一瞥すると、馬車に向かって手を差し出す。

「ローランザム王国第一王女、ティアナ殿下にあらせられます」

 侍女と同じく祖国から同行してきた年配の侍従が、声高に宣言する。

 アーネストは前に進み出て、その場に片膝をついた。他の騎士たちも同じ体勢を取り、出迎えたアシュクライン王国側の侍女たちは腰を低くし頭を垂れた。


 しかし、手を借りて馬車から降り立った人物を見て、一瞬アーネストの眉が少しだけ動いた。祖国の威信をかけて、さぞ豪奢に着飾っているだろうと想像していたが、実際の王女は全く反対の出で立ちだったからだ。

 全身は黒いローブにすっぽり包まれ、顔は同系色のヴェールで覆われている。そのせいで顔がよく見えない。しかし、じろじろと眺めるのは王族への不敬にあたるため、アーネストは素早く頭を下げた。ローランザム風の旅装だと、思えなくもない。

「お初にお目にかかります。私は第一騎士団長アーネスト・セルウィンと申します。我々第一騎士団が王女様の護衛を務めさせていただきます。以後お見知りおきを」


< 111 / 169 >

この作品をシェア

pagetop