【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
その二日後の夕刻。
「旦那様がお戻りになりました」という侍女の言葉を最後まで聞かずして、エルシーは自室を飛び出した。ドレスを持ち上げて、小走りで廊下を進む。
玄関で家令に上着を預けているアーネストの姿が視界に入り、エルシーは満面の笑みを浮かべた。
「お帰りなさいませ……!」
「ああ、ただいま」
少し頬を上気させながら、でも駆けてきたことを隠そうと平静を装い、たおやかに微笑む妻を見て、アーネストの口元も綻ぶ。こうして自分が帰宅したことを全身で喜んでくれる存在があるというのは、なんと幸せなのだろう。
「お疲れでしょう? お食事の前に、少し休まれますか?」
「いや、その前にエルシー、君に話があるんだ。着替えてくるから部屋で待っていてくれ」
そう言い残し、アーネストは廊下の奥へ進んでいった。
小首を傾げながらもエルシーが夫婦専用の居間で待つこと数分。
騎士団の制服を脱いで、軽装になったアーネストが現れた。妻の顔を見て、両腕を大きく広げる。意図を理解したエルシーもパアッと顔を明るくして、夫の胸に飛び込んだ。
「ずっとお待ちしておりましたわ! ご無事で何よりです」
「戦地に赴いたわけではないんだ。大げさだな」
笑いと呆れを含んだ口調ながらも、アーネストはエルシーの華奢な身体を思いきり抱きしめる。その声には嬉しさが滲み出ていた。
ふたりは、ひとしきり抱擁したあと、ソファに並んで腰かける。