【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「それで、お話とはどのような?」

「ああ……。二週間後には、陛下と王女殿下の婚礼式が執り行われる」

 アーネストはソファの背に身体を預けた。

「ええ。存じています。私達も臣下として、式への参列を許されているんですよね? そのことで何か?」

「いや」

 アーネストはかぶりを振ると、エルシーの手を優しく握る。

「明日、俺と登城してほしい。王女殿下のことで、陛下から直々に君に、お達しがある」

「えっ……私に、ですか?」

 突然のことにエルシーは驚いて目を丸くした。王女殿下と自分は何の関係もなければ、面識すらない。しかも国王直々にエルシーに何かを言い渡すという。知らないうちに、自分は何かをやらかしてしまったのだろうか。

「そんなに不安がることはない。俺も同席させてもらえるよう、陛下に上奏したから」

「そ、そうなんですね……。ですけれど、一体どんな内容なのでしょう。アーネスト様は何かご存知ですか?」

「……大体は。要は、王宮侍女として培った君の経験をもって、王女殿下の心を開いてもらいたいそうだ」

「私の経験で……?」

 一体、王と異国の姫君の間に、何があったというのだろう。エルシーの困惑を少しでも解消するため、アーネストが説明した内容は次の通り。

 王女が王宮に入って二日が経過したが、最初の謁見のみ顔を合わせただけで、王女は部屋に閉じこもっている。王がどんなに歩み寄ろうとしても、体調不良を理由に、頑なに拒否されているのだという。だが、医者に診せることは一切拒み、祖国から連れてきた侍女以外には自分の世話をさせない。長年勤めてきた王宮侍女たちの介入は許さず、他の使用人も締め出しをくらっており、不満が出るのは時間の問題。侍従からの話が耳に入り、王は当惑していたが、そこへ王太后が助け舟を出した。

『だったら一度、エルシーに……今はセルウィン公爵夫人だったわね。彼女に相談してみては? 彼女は我が娘グローリアを宥めるのが一番上手だったもの』

 まさに天の声とも言える王太后の何気ない発言で、エルシーに白羽の矢が立ったのだ。
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