【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
 長く感じられた静寂のあと、ジェラルドがようやく言葉を発した。

「今の話を踏まえて、今後を吟味する必要がある。騎士団長と王女……ではなく、ディアンだったな。ふたりはここに残れ。あとの者は、別室で待つように」

 エルシーは顔を上げて、アーネストを見る。彼は安心させるように大きく頷いた。

「どうかディアン様を……」

「わかっている」

 小声で言葉を交わすと、エルシーはパメラを連れ立って退室した。ふたりはディアンの部屋へと一旦戻ったが、彼の処遇が気になり、互いに口を閉ざしている。特にパメラは彼と一緒に運命を共にするつもりでいたのだ。握り合わせた両手の指が、左右それぞれの手の甲の皮膚に食い込んでいる。その痛々しい様子を見ていられなくて、エルシーはパメラの手をそっと戒めから解放した。

「そんなふうにしてはいけませんわ」

「……エルシー様、でも……」

 青ざめた顔でパメラが答える。

「手に傷を負ってしまったら、戻って来られたディアン様のお世話に支障が出ますよ」

 エルシーは努めて穏やかに諭した。それでもやはりパメラの表情は晴れない。

 何か気が紛れる話を、とエルシーが思い巡らせていると、ある疑問がふと浮かんだ。こんな時に話す内容ではないのかもしれないが、不安の静寂の中、パメラが精神的に参ってしまうよりマシに思える。

「ディアン様のことでお聞きしたいことがあるんです。よければお教え願いたいのですけれど」

「……はい、なんでしょう」

「その、ディラン様は……男性にご興味がおありだったり、しますか……?」

 パメラは目を丸くしている。

「あ、いえ、実は以前、騎士団長と毎日一緒で羨ましい、と言われたものですから。その時は、ディアン様を女性だと疑いもしていなかったので、私も不安というか、嫉妬のようなものを覚えまして……」
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