【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍


 ディアンが部屋に戻ってきたのは、それから一刻ほど経過した頃だった。意外にも早く、しかも無事帰ってきたことに、パメラも安堵したようで、少し涙ぐんでいた。このままディアンが縛られて投獄されてしまう可能性もあっただけに、喜びもひとしおだ。

 あのあと、ジェラルドに再び詳しく問いただされたらしい。今日はもう遅いからという理由で一旦部屋に戻されたが、アーネストはまだ謁見室に残っているという。

 ディアンの無事な姿にエルシーも喜んだが、彼の顔には疲労の色が漂っている。それもそのはず、この連日でどれほど神経をすり減らしていただろう。

 エルシーは、ディアンとパメラがゆっくり休めるように、お茶の用意をしたり寝台を整えたり、一通りの世話をしたあと、部屋を出た。もう遅い時間なので、侯爵家に戻るのは明日にしよう。ひとまず、先ほど与えられた宿泊部屋へ向かう。

 暗い部屋には窓から月明かりが差し込んでいた。テーブル上のランプに火を灯し、厚手のカーテンを引く。寝台に腰かけた瞬間、軽い眩暈がした。ディアンたちほどではないにしろ、エルシーにとってここ数年で一番疲れた日となった。

(それに、アーネスト様にちゃんと謝っていないわ)

 許してくれるだろうか。勝手な行動をした自分を、まだ妻だと認めてくれるだろうか。

 最初からひとりで悩まず、すべてをさらけ出せばよかったのではないか、と今さら後悔したところで遅い。自分の不甲斐なさに、自然と俯いてしまう。



 
 コンコン、と小さなノック音が聞こえた。エルシーはハッと目を開け、上体を起こした。いつの間にか身体を横たえていたようだ。

 扉を開けると、立っていたのはアーネストだった。

「多分、ここにいると思った」

 エルシーはそっとアーネストを部屋に招き入れる。
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