騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「王女も長旅で疲れているだろうから、夕食まで部屋で楽にするといい。セルウィン公爵夫人、あとは頼めるかな?」
「はい。どうぞこちらへ」
一旦ジェラルドとは離れ、エルシーはティアナを館内へ案内した。そのあとに数人の侍女が付き従う。ローランザムからの使用人はひとりも来ていないようだった。ディアンとパメラの姿がないことがとても残念に思われる。だが、これで彼らの役目は終わったのだと、エルシーは悟った。
二階の部屋に入り、侍女たちと共にティアナの足と手を洗い、着替えをさせると、エルシーは温かいお茶の準備を侍女らに指示した。彼女たちが退室している間に、美しい輝きを放つ銀髪の髪を梳かしていく。
身だしなみが整ったところで、ようやくティアナが口を開いた。
「ディアンとパメラが、あなたにはとてもお世話になった、と感謝しておりました。私からもお礼を申し上げます、エルシー様」
「滅相もございません、私など何も。それに、どうぞ私のことは呼び捨てになさってくださいませ」
「いいえ、あなたは私の大切な友人たちを守ってくださいました。私の敬意の表れとして、しばらくはそう呼ばせていただきたいのです。せめて、ジェラルド陛下と結婚して王妃となるまでは」
ティアナはエルシーの目を真っすぐ見て微笑んだ。確かに対面するとディアンとは違う。さすがは将来女王として育てられただけあって、堂々と威厳に満ちていて、その落ち着きぶりは実年齢より上に見える。
「……わかりました。王女殿下のご意思に従います」
侍女たちが運んできたお茶をティアナはゆっくり飲んで、しばらくすると早めの晩餐の時間になった。西日はまだ地平線上にあり、辺りは明るいが、砦では陽の昇っているうちに夕食を済ませるのが常であるという。