騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「私は隣りの部屋に控えております。何かありましたら、いつでもお声掛けください」
夕食後、入浴と着替えを済ませたティアナに、エルシーは言った。元気そうに振舞っていたティアナは少し疲れが出たようで、表情に陰りが見える。料理人の話によると、あまり食事にも手をつけていなかったらしい。もしかしたら、ローランザムで命を狙われたことが尾を引いているのかもしれない。しかし、何があったのかこちらから聞けるわけもなく、エルシーの心配は募るばかりだ。
ティアナは小さく頷いたきり、寝台に身体を横たえた。華奢な身体にそっと毛布をかけて、エルシーが退室しようとした時。
《カナシイ》
誰かの声をエルシーは確かに聞いた。
(えっ?)
エルシーは、振り返って周囲に視線を走らせる。当然、ティアナ以外誰もいない。しかし彼女の声ではない。ということはつまりーー。
(……どういうこと? また聞こえるようになったの?)
久々に聞こえたという事実が、エルシーに不安をもたらす。
(悲しい……? 何が?)
心の中で呼びかけるが、声はそれ以上反応しなかった。
「エルシー様、どうかしたのですか?」
急に空中を見つめ始めたエルシーに、ティアナは怪訝そうな眼差しを向ける。
「い、いえ、何でもありません。おやすみなさいませ」
とにかく今はティアナをゆっくり休ませなければ。エルシーは慌てて笑顔を取り繕うと、そっと部屋を出た。