騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「ここを誰かが通りませんでしたか⁉」

「い、いえ、自分はずっとここにおりましたが、誰も」

 ガウン姿の美しい女性が金髪を乱したまま走り込んできたことに、若い騎士は動揺を隠しきれない様子でしどろもどろに答える。

 エルシーは急いで上階に駆け上がると、アーネストの部屋のドアを叩いた。

「エルシー、どうした?」

 少しだけ開かれたドアの隙間から、立っているのは妻だとわかると、アーネストは急いで彼女を部屋に招き入れた。

「俺も会いに行きたかったが、場所が場所だけに――」
「それは私もですけど、今は違うんです! 王女様のお姿が見えないんです!」

 エルシーの訴えに、アーネストは目を見張った。しかし、真面目な彼女がそんな冗談を言うはずがない。

「他の誰かに言ったか?」
「いいえ、まずはアーネスト様にお知らせしようと。詳細がわからない今、大騒ぎになって、ゆくゆく王女様の立場が悪くなってはいけませんから」
「わかった」

 アーネストは椅子に掛けてあった自分の上衣でエルシーの身体を覆った。

「俺は今から騎士団とともに捜索にあたる。君はこのまま、ふたつ隣りの部屋を訪ねて事の次第を陛下に伝えてくれ」

 本来ならアーネストもこんな薄着のままの妻を、夜に自分以外の男の部屋に向かわせたくはなかっただろう。しかし、今は一刻を争う。

 ふたりは同時に部屋を飛び出し、それぞれ目的の場所へ向かった。
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