【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
 廊下に突っ立ったまま、震える手で急ぎ開封する。

『エルシー・ウェントワース嬢

お母上の宝石を盗んだ犯人は、今朝方、王都から少し離れた町にいたところを騎士団の捜索により捕らえられ、投獄されたこと、宝石は無事にお母上のもとに戻りましたことを、ご報告申し上げます』

 差出人の名前はなかったが、そこに並ぶ流麗な字を見つめて、エルシーの胸は熱くなった。

(アーネスト様……ありがとうございます……!)

 母の手に、再び父の形見が戻ってきた。早めに包囲網が敷かれたのも、アーネストの要請があったからかもしれない。

 今頃きっと母も弟も安堵の涙を流している。エルシーも同じように瞳を潤ませながら、そっと手紙を胸に抱きしめた。




 アーネストに礼を伝えたいが、勤務中に持ち場を抜けることはできない。一日の仕事が終わったら、屋敷を訪ねてみようか。でも遅い時間に迷惑ではないだろうか……。

 などど、考えていたので、昼食も半分ほどしか入らず、エルシーは早々にグローリア王女の部屋に戻った。

 残っていた侍女と交代し、王女が午後のお茶の時間に着るドレスを選ぶ。

(だけど、アーネスト様に失礼な態度を取ったのは事実だし、さっきは義務で知らせてくれただけで、きっと怒っていらっしゃるわ)

 やはり直接顔は合わせづらい。ここはひとまず手紙をしたためるべきか。

 そうしよう、と頷きかけて、逃げ腰になっている自分にハッとする。

(……意気地なしね、エルシー)

 そんな臆病さに自己嫌悪し、首をもたげながら不意に重いため息が漏れた時。

「ちょっと、エルシー。そんなに何度もため息をつかれては、気になってこっちの気分も暗くなるわ」

 可愛らしくも凛とした声が、部屋に響いた。

 ギクリとしてエルシーが顔を上げると、視線の先に、グローリア王女が腰に手を当てて、少し難しい表情で衣装部屋の扉付近に立っている。
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