騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
騎士団棟の廊下には、いましがた鍛練を終え、訓練場から出てきた少年騎士たちでごった返してした。
緊張した時間から解放され、くつろいだ雰囲気の中、束の間の雑談に興じる若い騎士たちだったが、廊下の先から王女専属の護衛騎士が現れたことで、再び背筋を伸ばし、廊下の端に寄った。
その前を、先輩である護衛騎士、通常近くでは滅多にお目に掛かれない麗しの王女グローリア、そしてその王女になぜか手を繋がれ背中を丸めた侍女が通り過ぎていく。
一行はやがて、棟の奥、飾り気のない重厚なドアの前に到着した。護衛騎士が先にノックする。
「失礼します。団長、王女殿下がお見えです」
「……今行く」
一瞬間があったものの、アーネストの声が中から聞こえ、エルシーは緊張で思わず身体を硬くした。
ドアが開かれ、グローリアが騎士団長室へと足を進める。
入口に立ち、胸に手を当てたまま一礼し、完璧な所作で王族への敬意を払ったアーネストだったが、続いて入ってきた侍女の姿を見て少し眉を動かした。しかし身を縮めて下を向くエルシーからグローリアへとすぐに視線を戻す。
「殿下。ご用とあらば、いかなる時も馳せ参じましたものを」
「いいのよ、私用だから。ちょっとあなたに人探しを手伝ってほしいの。彼女の口から話した方が早いわね」
グローリアがエルシーの背中を押した。
「いえ、そんな……」
「ほら、エルシー。話してみて。大丈夫、彼は力になってくれるわ」
「ですが……」
なかなか視線を上げられず口ごもるエルシーを見て、グローリアは何かに気づいたように息を呑んだ。
「ああ、ごめんなさい。誰かがいると話しにくいわよね。わたくしは外に出ているから、気兼ねなく話してね」
「えっ、あの、グローリア様……! 私も戻ります!」
「せっかくここまで来たのに、何言ってるの? あなたに暗い顔をされてると、気になって仕方がないのよ。これはわたくしのためでもあるの。それからアーネスト、くだらない用事でなぜ来たのか、とか言って彼女を責めないでね」
グローリアはそう告げるとドアを開け、困り顔のエルシーを置いて部屋を出ていってしまった。