騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「何を言っているのか、君はわかっているのか?」

「もちろんです。恥を忍んで申し上げているのも重々承知です」

「そうじゃない。……君はこんな俺でもいいのかと、聞いているんだ」

「え……? それは私の台詞ですが……」

 妙な空気に、ふたりの会話が止まる。アーネストはバツが悪そうに、目を丸くして見つめてくるエルシーから視線を逸らした。

「君は自分を恥じていると言ったが……ならば俺もそうだ。時々結論を急ぎ過ぎて、つい自分の持論を展開しがちになる。決して相手を否定したり傷つけたりしようとしているわけではないんだが」

 冷たい男だと思っていたのに、今は素直に自分の短所を述べている。
 エルシーは驚きとともに、彼の新しい一面を垣間見たような気がして、なぜだか少し嬉しくなった。

「ルークの件は俺が言い出したことだから、ちゃんと責任は持つ。必ず君の力になると約束する」

 アーネストはエルシーの手をそっとすくい上げると、誓いの証として彼女の手の甲にそっと口づけた。

 あくまで儀礼的な所作だったが、そこに微かな男の色香を感じ取ったエルシーは、突如発生した体内の熱によって立ち眩みを起こしそうになる。

「よ、よろしくお願いします……」

 何とかそう答えると、アーネストはようやく少し口元を綻ばせた。


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