騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
第一騎士団長であるアーネストのもとには、連日、王都や国境を警備する他の騎士団からの報告がもたらされる。それらをまとめ、全騎士団と軍の総帥たる国王陛下へご報告に上がるのも、第一騎士団長の重要な任務だった。
アーネストが訪れた先の執務室で、悠然と椅子に腰かけているのは、茶褐色の髪と青い瞳の、端正な顔立ちをした青年。二十四歳の国王ジェラルドである。
いつも通り、騎士団からの報告を受けていたジェラルドだったが、アーネストが最後に述べた内容に驚き、一瞬言葉を失った。
「……すまない、よく聞き取れなかった。もう一度言ってくれないか」
「このたび婚約いたしました、と申し上げました」
「相手は、妹の侍女のエルシー・ウェントワースだったかな」
「全て聞こえていらっしゃるではありませんか」
この無駄なやりとりを予感していたアーネストが、呆れを含む口調で言い返したのに対し、目の前の若き王はいたずらっ子のような笑みを浮かべている。
「すまない。なんだか再度君の口からはっきり聞いてみたくなってね。そうか、君も落ち着く覚悟を決めたか。ともかくめでたい。おめでとう」
「ありがたきお言葉を賜り、光栄に存じます。彼女に結婚の申し入れをする後押しをしてくださったのも陛下であらせられます。重ねて感謝申し上げます」
「はて、私は何かしたかな?」
「これまでさまざまなご令嬢を推薦してくださいましたが、臣下である私のためにこれ以上陛下のお手を煩わせてはならないと決心した次第です。私が誰かと婚約すれば、陛下にもご安心いただけるのではないかと」
「それで自分で相手を見つけたというわけか」
肯定の意志を示すようにアーネストが少し頭を下げると、ジェラルドは面白くなさそうに執務机に頬杖をついた。
「つまらないな。君がご令嬢たちをどう退けるか、毎回楽しみにしていたのに。私からの紹介とあって、君も彼女たちを邪険にはできなかったはずだからね。それより、君がどんな言葉で彼女に結婚を申し込んだか、気になるな」
「周囲がやたら見合いを勧めてくることにうんざりしている、と伝えました」