騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍

 
「原因がわかったぞ。馬車の車輪の一部に不具合が見つかった。あのまま出発していたら、どこかで事故にあっていたのは間違いない」

 一時間ほどして、第一騎士団の執務室に駆け込んできたのは、アーネストと同年の副団長、グレッグ・カートラルだ。赤い癖毛が後方で跳ねていて、アーネストとは正反対に親しみやすい印象を受ける。

 王女の護衛騎士から騒ぎの報告を受けたアーネストは、その発端がエルシーだと聞いて耳を疑った。だが、報告は事実で、エルシーは王女の控えの間に待機しているとのことだった。

問題は、外観からは見えないそれがなぜ、ただの侍女にわかったのかという点だ。これからその嫌疑は彼女に向かうことだろう。

「危機を知らせたその侍女だが、陛下御自ら聴取したいと仰せられて、連れていかれたらしい」

続けて発せられたグレッグの言葉に、アーネストは勢いよく椅子から立ち上がった。そのまま無言でドアへ向かう。

「アーネスト、どこに行く?」

「陛下のところだ。第一騎士団の任務は王族諸侯の護衛だけではない。我々でまず王宮内での変事に関わる人物から聴取して、陛下にご報告申し上げるのが筋だ」

「だが、今回は王妹のグローリア殿下の馬車だ。もうすぐ輿入れの時期だし、陛下も気がたってらっしゃるんだろう。直々にお出ましとあらば、俺たちは待つしかない」

グレッグの意見も最もなのはわかっている。だが、アーネストは、ある可能性を考慮して、エルシーのもとに駆けつけたかった。なので、今なお自分を止めようとするグレッグを手っ取り早く封じる言葉を放った。

「彼女は俺の婚約者だ」

案の定、空中を沈黙が漂う。ポカンと口を開けたままのグレッグを置いて、足早にアーネストは執務室を出ていく。

かなり廊下を進んだところで、ドアの内側から「ええーっ!?」というグレッグの叫びを背中で受けたのだった。
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