騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
 
 とある一室へと連行されたエルシーは床に膝をつき、縮こまりながら視線を下ろしていた。しかし、膝に触れるのは冷たい石ではなく、臙脂色の最高級のじゅうたん。さらに言えば、視界に入ってくるのは薄暗い光ではなく、部屋全体を満たす温かな陽射しだ。

 数分前、てっきり地下か塔の取調室に連れて行かれると思っていた。しかし、百八十度真反対の部屋に連れられ、エルシーが戸惑い立ち尽くしていると、すぐに続きの部屋のドアが開いた。現れたのは国王ジェラルドだった。

「陛下……!」

 エルシーは驚いて、かろうじてその一言だけ喉の奥から絞り出すと、反射的に床に平伏した。

「ああ、そんなに硬くならなくていい。ここは私の私的な謁見室のひとつだ。妹を助けてくれて礼を言う。少しお茶でも飲んでいかないか」

 ただの侍女が国王との同席を許されるなど、あり得なさすぎる。優雅にソファに腰掛けたジェラルドからの発言を受けたエルシーの混乱は、最高潮に達した。

「め、滅相もございません……!」

 エルシーはわけがわからず、緊張と混迷の渦中で青ざめながら、その場で身を硬くしているほかなかった。ジェラルドの言葉どおり、ソファ前のテーブルにはちゃんとふたり分のお茶が用意されていたが、彼女がそれに気づく余裕はない。

 無言の空気が、さらにエルシーの緊張を加速させていく。ジェラルドが二杯目のお茶を飲み終えようとした時、不意にドアの外が騒がしくなった。

「お、お待ちください、今、お取次ぎを……!」

 困惑した王専属の侍従の声が聞こえてくる。エルシーがドアに目を向けたのと、それが勢いよく開かれたのは同時だった。


 
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